管理組合による専有部分の取得(区分所有法制の改正に関する中間試案)

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築38年・総戸数28戸のマンションの理事です。
長年単身で居住されていた206号室の区分所有者が亡くなり、遠方にお住まいの息子さんが相続されました。ところが、息子さんはご自身では当マンションに居住する予定がないことから、同室を売却するように試みているようですが、買い手がなかなか見つからないそうです。
当マンションには会議室がなく、分譲当初から理事会は近くのファミリーレストランで行っているため、マンション内に会議室があっても良いのではないかという声があります。また、同室が不在で使用されない状態が長期化すると、室内設備の劣化が進まないか心配です。
理事会では、管理組合がこの機会に同室を購入して、区分所有権を取得してはどうかという話が上がっています。管理組合が専有部分の区分所有者となることは可能なのでしょうか?

ご質問の件につきましては、貴マンションの管理組合が⑴ 法人化されている場合(管理組合法人である場合)と、⑵ 法人化されていない場合とに分けて考える必要があります。

1 法人化されている場合(管理組合法人である場合)

⑴ 従前の議論

管理組合が法人格を取得するメリットとして、法人である管理組合が権利義務の主体となることが挙げられます。すなわち、管理組合の法人化によって、第三者との関係において契約(例えば、管理委託契約、修繕工事の請負契約)の当事者となることができ、また、管理組合の財産と個人の財産の区分を明確にすることができ、不動産を法人名義で登記できることになります。

ご質問の例では、法人格に関する理論上の回答としては、管理組合法人は、法人自体に帰属する権利として専有部分である206号室の区分所有権を取得し、また、管理組合法人名義で所有権移転登記の手続を行うことが可能である、とご説明することになります。

⑵ 「令和5年6月公表の区分所有法制の改正に関する中間試案」の紹介

現行の区分所有法制において、区分所有権を取得することが管理組合法人の目的の範囲内の行為として認められるのか、また、区分所有権の取得のためにはどの範囲の区分所有者の賛成を得る必要があるのかという点について、明確には定められていません。

そこで、令和6年度の通常国会に法案提出が見込まれている「区分所有法制の改正に関する中間試案」においては、「管理組合法人は、建物並びにその敷地及び附属施設の管理を行うために必要な場合には、区分所有者及び議決権の各4分の3以上の多数による集会の決議で、当該建物の区分所有権又は区分所有者が当該建物及び当該建物が所在する土地と一体として管理又は使用をすべき土地を取得することができる。」との条項案が示されています。

すなわち、区分所有建物等の管理を行うために必要があること、区分所有者及び議決権の各4分の3以上の特別決議があることを要件として、管理組合法人による区分所有権を取得することが認められることになり、この点が明確化される見込みです。

もっとも、何をもって、中間試案の「管理を行うために必要があること」と言えるのかは今後の議論を待つことになりますが、ご質問のような「専有部分の相続開始後の長期間の不在」・「建物施設上の必要性があること」という状況は、この要件を肯定する要素になるものと考えられます。

なお、中間試案の内容はいまだ流動的なものですから、今後の動向に十分にご留意ください。

2 法人化されていない場合

法人化されていない管理組合も、規約が設定され、代表者が選任され、多数決で議事が処理されている場合には、いわゆる権利能力なき社団の性質を有し、権利能力なき社団の法理による法的処理ができることになります。

もっとも、権利能力なき社団である管理組合が区分所有権を取得する場合、登記名義人は管理者または区分所有者全員とする必要がありますので、管理者または区分所有者が交替するごとに登記手続が必要で、極めて煩雑な管理が必要となるため、法人化されていない管理組合による区分所有権の取得はおよそ現実的でありません。

そのため、まずは管理組合の法人化について検討する必要があるでしょう。

 なお、管理組合の法人化の手続については、区分所有法47条以下に規定があります。 すなわち、管理組合において、区分所有者及び議決権の各4分の3以上の多数による集会の決議で、法人となる旨並びにその名称及び事務所を定め、かつ、その主たる事務所の所在地において登記することが必要となります。

*大規模修繕工事新聞2023年10月号に掲載された原稿に一部加筆修正を加えました。

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