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滞納管理費の相続ーマンション関連判例紹介ー
事案の概要
被相続人Aは、複数の区分所有建物(以下「本件不動産」といいます。)を所有し、賃貸していた区分所有者ですが、平成8年10月に死亡しました。
法定相続人は、後妻であるBと前妻との間の4名の子C、D、E、F(以下「Cら」といいます。)でした。
Bらは、遺産分割協議が成立するまでの間、相続人全員で共同管理する銀行口座を開設し、本件不動産の賃料や管理費等支払に用いることとし、遺産分割協議により本件不動産の帰属が決定した後に口座の残金を清算するという合意をし、相続開始から41か月後の平成12年2月、本件不動産はBが相続するという遺産分割決定が確定しました。
その後、口座の残高の分配方法(Aの死亡時から遺産分割までの間に生じた賃料債権(賃借人が支払った家賃)の帰属)を巡り、BとCらの間で争いが生じました。
【それぞれの主張】
<後妻B>
本件不動産から生じる賃料債権は、遺産分割の遡及効(民法909条)により、相続開始のときに遡って、本件不動産を取得した相続人(すなわちB)に帰属すべきである。
<子Cら>
遺産分割までは、法定相続分に従って各相続人に(BだけではなくCらにも)帰属すべきである。
最高裁の判断
「遺産は、相続人が数人あるときは、相続開始から遺産分割までの間、共同相続人の共有に属するものであるから、この間に遺産である賃貸不動産を使用管理した結果生ずる金銭債権たる賃料債権は、遺産とは別個の財産というべきであって、各共同相続人がその相続分に応じて分割単独債権として確定的に取得する。遺産分割は、相続開始の時にさかのぼってその効力を生ずるものであるが、各共同相続人がその相続分に応じて分割単独債権として確定的に取得した賃料債権の帰属は、後にされた遺産分割の影響を受けない。」として、Cらの言い分を認めました。
以上のとおり、最高裁は、「賃料債権」に関しては、被相続人の死亡から遺産分割までの間は、各相続人が相続分に応じて分割単独債権として確定的に取得すると判断しました。
本事案では多額の「賃料債権」が生じており、「管理費等の滞納」などはなかったようですが、それでは、本事案のようなケースで「管理費等の滞納」があった場合について、検討してみましょう。
(1)被相続人の生前から管理費等の滞納があった場合
この場合は、金銭債務は分割可能な債務とされるため、法定相続分に従って、当然に分割債務となるとされています。
そのため、Bが負債額の2分の1を、Cらは一人あたり8分の1を相続することになります。
そこで、管理組合としては、B及びCらの一人ずつに対して、それぞれが相続した負債額に応じて請求していくということになります。
なお、相続人の一部が相続放棄を申述した場合、相続放棄をした者は相続開始時に遡って相続人ではなかったことになりますので、この者に対する請求はできないことになります。そこで、相続放棄をしなかった相続人に対して請求することになります。
さらに、全ての相続人が相続放棄をした場合はどうなるでしょうか。この場合、管理組合としては、家庭裁判所に対して、相続財産管理人の選任を申立てることが考えられます。
ただし、この申立には、各地の家庭裁判所の基準に基づいて数十万円から百万円程度の予納金の納付が必要となるなど、手続には一定の知識や経験が求められますので、詳しくは弁護士に相談されると良いでしょう。
(2)相続開始後、遺産分割前に管理費等の滞納が発生した場合
この場合は、いまだ遺産分割が行われておりませんので、不動産は相続人間の共有となります。そして、管理費については、専有部分の共有者間は連帯債務の関係に立つと考えら
れます。
そのため、管理組合としては、共有者である全ての相続人に対して、滞納管理費の全額を請求することができます。
(3)遺産分割後に管理費等の滞納が発生した場合
この場合は、遺産分割により不動産の所有権が特定の相続人に帰属することになりますので、当該不動産を相続した相続人に対して、滞納管理費等を請求することになります。
(4)以上のいずれの場合においても、被相続人の出生から死亡までの連続した戸籍などを取得して全ての相続人を把握し、それぞれに連絡することが求められますが、管理組合に求められる負担は少なくありませんので、弁護士の活用を積極的にご検討いただければと思います。
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